ロシア人、女性狙撃手の成長物語。
戦争はかくも人の心を歪めるのだなと読んでて痛々しくなる。
オリガというウクライナ出身のチェーカー(秘密警察)が死ぬ間際に「くたばれソ連」と言ったことは、ウクライナ人のロシアへの恨みを象徴してるように思える。今につながるロシアのウクライナ侵攻の背景には、別々の民族がソ連という壮大なフィクションの下で一つになっていた息苦しさがあったんだろう。
ソ連は第二次世界大戦でナチスドイツに勝利したこと。そして、そこで二千万人余りの犠牲者を出したことは、ソ連という国が一つにまとまるために必要な「物語」なんだろう。日本みたいに戦前・戦後が別の国みたいに語られるのとは違う。
そうそう、実際にソ連最高の女性スナイパーと言われたリュドミラ・パヴリチェンコが作中に出てくる。彼女は戦後の生き方を問われ、「好きな人を見つけるか、生きがいになるものを見つけるか」と語った。本当にそう言ったかは分からないが、作中の女性スナイパーたちの今後の生き方を示唆する内容になる。
戦争という異常さを生きた彼ら、彼女らは戦後まともな生活が送れたのか? 平和な暮らしを心から満喫できたのか … ?そんな問いも投げかけられる。実際のリュドミラ・パヴリチェンコは戦後PTSDとアルコール中毒に苦しむ。英雄と称えられる一方、その精神は苛まれていたわけだ。
ともかく独ソ戦の悲惨で陰気な感じが伝わってくる小説だった。最後、希望の見える終わり方で良かった!